ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻に対し、これを止めようと、米国、EU、日本などが、ロシアの新興財閥オリガルヒに制裁を課しています。
オリガルヒとはどんな語源から来ており、その意味はなんなんでしょう?
オリガルヒの総資産はどれだけで、ロシア経済の何%を占めるのでしょう?
オルガルヒの個人名を挙げ、プーチン大統領との関係、それぞれの総資産、各国の制裁との関係を一覧表にしました。

オリガルヒとは語源・意味は?
オリガルヒの語源と意味、歴史についてまず見てゆきましょう。
ロシアやウクライナ等旧ソ連諸国が資本主義化される過程で作られた政治的影響力を持つ新興財閥を意味していました。
寡頭制を意味するギリシャ語 (oligárkhēs) を語源とすると言われています。
ソ連が崩壊した1990年代のロシアでは、オリガルヒは怪しい方法で権力を掌握し、その多くが民営化の流れの中、国営企業を二足三文で買収して繁栄しました。
1996年には、オリガルヒが支持したおかげで、ボリス・エリツィンが大統領選で勝利しました。
エリツィンを中心とした側近集団は、後に俗にエリツィン・ファミリーという一大派閥を形成することとなりました。
このような政治と新興財閥の癒着は、腐敗の温床を形成したため、新興財閥に対して批判的な世論が高まってきました。エネルギーや資源関連の産業は、特に独占的傾向が強く、競争原理が働きにくい状況から経営の不健全性、不透明性が問題となってゆきました。
2000年代初めに、プーチン政権発足とともに、政権と対立関係にある新興財閥に対して脱税容疑などで、締め付け、政治に直接影響力を行使した本来の意味でのオリガルヒは政策決定の場から放逐されました。
プーチンは、政治的脅威となる新興財閥に対しては、これを容赦なく抑圧する方針を掲げる一方で、政権に忠誠を誓った財閥とは関係を深めてゆきました。
2007年からの世界金融危機で、多くの新興財閥が没落の危機に瀕した際、プーチン政権は、政府の資金でどの新興財閥を救済するかを選別しました。
また、2010年に入って石油や株式市況の改善、そして何より政府の富豪救済策もあって新興財閥は息を吹き返しました。
プーチンの親族が富豪化するなど政商取り巻きが豊かにはなっていますが、以前とは違い、財閥は政治に口出すというより、2014年クリミア危機に遭遇しても、基本的に政府に従順でありつつ、財を増やし続けてきました。

「ロンドングラード」脱却なるか…イギリス政府がオリガルヒへ経済制裁 政財界、社会に広がるロシアマネー https://t.co/HbOKhgdKpi
— 東京新聞編集局 (@tokyonewsroom) March 16, 2022
オリガルヒの総資産は?
ロシアの富豪たちはウクライナ侵攻後のロシア株急落などによって資産を減らしたものの、彼らがもつ富の総額の国内総生産(GDP)比は3月3日時点でも15%超と、米国(15%弱)などよりも高くなっています。
ロシア連邦の2021年に分かる最新の名目GDP (国内総生産)は、 $1,483B ですので、これの15%というと、$222Bすなわち、約25兆5300億円となります。
ブルームバーグの世界の「ビリオネア・インデックス」で400位までに入るロシア富豪のランクを見てみましょう。
ランク | 名前 | 読み | 総資産 | 1年間の増減 | 国 | 産業分野 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
53 | Vladimir Potanin | ウラジミール・ポターニン | $25.5B | -$5.40B | ロシア連邦 | 商品 | オリガルヒ |
61 | Alexey Mordashov | アレクセイ・モルダショフ | $22.3B | -$6.49B | Russian Federation | 工業用 | オリガルヒ |
62 | Leonid Mikhelson | レオニード・ミケルソン | $22.3B | -$10.1B | Russian Federation | エネルギー | オリガルヒ |
69 | Vladimir Lisin | ウラジミール・リシン | $21.2B | -$6.78B | Russian Federation | 工業用 | オリガルヒ |
84 | Andrey Melnichenko | アンドレイ・メリニチェンコ | $19.3B | +$1.86B | Russian Federation | 工業用 | オリガルヒ |
90 | Alisher Usmanov | アリシェフ・ウスマノフ | $18.5B | -$2.77B | Russian Federation | 多角化 | ? |
128 | Roman Abramovich | ロマン・アブラモビッチ | $13.9B | -$4.10B | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
134 | Mikhail Prokhorov | ミハイル・プロホロフ | $13.4B | -$564M | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
170 | Gennady Timchenko | ゲンナジー・チムチェンコ | $11.8B | -$10.6B | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
176 | Suleiman Kerimov | スレイマン・ケリモフ | $11.7B | -$3.56B | Russian Federation | 商品 | オリガルヒ |
199 | Dmitry Rybolovlev | ディミトリ・レべデフ | $10.4B | -$598M | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
205 | Victor Rashnikov | ビクトル・ラシニコフ | $10.3B | -$3.92B | Russian Federation | 工業用 | オリガルヒ |
211 | Mikhail Fridman | ミハイル・フリドマン | $10.1B | -$3.84B | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
281 | Vyacheslav Kantor | $8.13B | -$896M | Russian Federation | 工業用 | ? | |
344 | German Khan | ジャーマン・カーン | $6.92B | -$2.58B | Russian Federation | 多角化 | オリガルヒ |
346 | Alexander Abramov | アレクサンダー・アブラモフ | $6.91B | -$2.17B | Russian Federation | 工業用 | オリガルヒ |
資産合計は$233Bとなります。ほぼ前記計算と合います。
次に、オリガルヒと呼ばれている面々の、資産総額、プーチン大統領との関係、現時点でわかっている制裁対象の有無について一覧しました。
総資産 | 名前 | プーチン大統領との関係 | 企業 | 制裁対象 |
---|---|---|---|---|
$18.5B | アリシェフ・ウスマノフ | お気に入り | 通信大手「メガフォン」の株式の過半数と、鉄鋼大手「メガロインベスト」の株式 | 2月28日EUの制裁 |
ボリス・ローテンベルク | 柔道仲間 | 「SMP」銀行の取締役 | クリミア侵攻後、米国の制裁 | |
アルカジー・ローテンベルク | 柔道仲間 | 大手建設会社「モストトレスト」の所有者 | クリミア侵攻後、米国の制裁 | |
イゴール・シュワロフ | 元第一副首相(2008~2018) | 政府系金融機関「VEB」の会長 | 3月3日米国の制裁 | |
エフゲニー・プリゴジン | 「プーチンの料理人」 | 高級レストラン、インターネット・リサーチ・エージェンシー | 米国、EUの制裁 | |
セルゲイ・チェメゾフ | 元KGB将校 | 国営軍事企業ロステックのCEO | クリミア侵攻後、米国の制裁 | |
ニコライ・トカレフ | 元KGB将校 | 国営パイプライン企業社長 | 今回、米国とEUから制裁 | |
$25.5B | ウラジミール・ポターニン | 元第一副首相 | インターロス・グループ、銀行家、金属鉱業の大物実業家 | |
$22.3B | レオニード・ミケルソン | プーチンの親友 | 天然ガス大手ノバテックの創業者兼会長 | 未 |
ピョートル・アヴェン | プーチンに最も近いオリガルヒのひとり | 商業銀行アルファ・グループの代表 | 2月28日EUから制裁 | |
$10.1B | ミハイル・フリドマン | プーチンの側近を援助する者 | 商業銀行アルファ・グループの創業者 | ウクライナ侵攻に反対を表明、2月28日EUの制裁 |
$22.3B | アレクセイ・モルダショフ | ロシア一の富豪 | セヴェルスターリ | EUの制裁 |
$13.9B | ロマン・アブラモビッチ | プーチンの側近を援助する者 | チェルシーFCのオーナー | 3月10日英国の制裁 |
オレグ・デリパスカ | コングロマリット(複合企業)En+(エンプラス)CEO | 3月14日英国の制裁 | ||
アンドレイ・コスティン | 国営銀行VTB会長 | 3月10日英国の制裁 | ||
アレクセイ・ミラー | 天然ガス世界最大手ガスプロムCEO | 3月10日英国の制裁 | ||
$10.4B | ディミトリ・レべデフ | 金融大手バンク・ロシア会長 | 3月10日英国の制裁 |
いずれも資源など大産業グループや企業の上層部にあり、なんらかの形で、プーチンと関係が深いことがよくわかります。
一部を除いて欧米の制裁対象となっています。
オリガルヒの中には、ミハイル・フリドマンのように、ウクライナ侵攻に反対したり、ウラジミール・ポターニンのように、「資産接収に動けば今後数十年にわたって世界の投資家からロシアに不信感が向けられる結果になる」と指摘するものもいますが、プーチンは聞く耳を持たないようです。
政権に従順で、財を築くのはかまわないが、昔のようには、政権運営に口を挟ませないというプーチンの方針が揺らぐことがないのかもしれません。

オリガルヒに関するSNSの反応



本来、社会主義国というのは生産手段の私有を認めないので、地位や役職に伴って利得を得る政治家や官僚はいても、企業グループや不動産を私有する資本家や財閥一家はいない

経済的にはスターリン主義時代の党官僚が「企業経営者」として経済主導権を握り続けているだけで、人民はあんまり裕福になれていない
まとめ
わかりやすくまとめると
- オリガルヒの語源は、ギリシャ語の寡頭制を意味する言葉で、ロシアで、政治的影響力を有する新興財閥を指す
- オリガルヒの総資産は、ロシアのGDPの15%で、$222Bすなわち、約25兆5300億円と推定される
- プーチンは従順なオリガルヒだけを残し、これまで、政治に口を挟ませずに、蓄財を認めてきたため、オリガルヒへの制裁が、侵攻停止に効果があるかは不明

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